幕末異聞―弐―
「…いくら何でも卑怯じゃないですか?正面で二人と対峙している相手の後ろを取るなんて」
「そ、総司?!!」
ギリギリと耳障りな音を立てていがみ合う二本の刀。
近藤の背を借りて、浪士の刀を下から受け止める形で間一髪援護した沖田。しかし、この背を反らせた体勢では、長時間刀の競り合いをすることはできない。
沖田は、近藤の背中を左肘でトンっと押し、左に体を避けるように合図をした。
そしてもう一度背中を押した瞬間、ピタリと息を合わせ、近藤は左に、沖田は右に体を移動させた。
これで近藤の相手は二人、沖田の相手は一人となった。
「はぁ…はっ。総司、すまぬ!」
「いいえ。それより近藤さん」
絶対に踏み込めない間合いを取りながら沖田は近藤を横目で見る。
「二階で残っているのはこの三人だけです。おそらく、今大変なのは一階でしょう。ここは私に任せていただけませんか?」
「…それはそうだが。お前だって大分息が切れているではないか!?」
最早深呼吸だけでは間に合わず、肩で息をしている沖田を心配する近藤。
「私は大丈夫です。信じてください!」
滅多なことで声を荒げることのない沖田が苛立ったように叫んだ。近藤は、目を見開いて沖田の表情を伺う。
「…絶対に死ぬな。これは局長命令だ!」
窓から入る光の加減で、沖田の肌はまるで死人か病人のように青白く見えた。
「はい」
沖田の返事を聞くと、近藤は小幅で横歩きをし、隣の部屋に移動すると、裏階段を目指して一気に走り去っていった。
「…っ!!」
「やめなさい!!」
近藤と刀を交えていた二人が後を追おうと踏み出した時、流れるような発音でその動きを止める者がいた。