幕末異聞―弐―


「くっそ!!次から次へと落ちてきやがって!!」

八畳ほどの狭い中庭で奮闘している藤堂は、二階から跳び降りてくる浪士の処理に手こずっていた。
普段から精神鍛錬を怠らない藤堂でも、これだけの数の浪士と刀を交えれば集中力が散漫になってくる。


「ぐふっ!!」

「うあぁあああッ!!」

(これでッ!!)

額の鉢金を通過して滴る汗に邪魔されながらも、何とか最後の一人に渾身の突きを噛ます。

「お…終わったぁぁ…」


中庭いっぱいに転がる人間の中、一人立っていた藤堂は崩れるように膝を地面についた。長時間の緊張が解けてほっと一息吐く藤堂。
やっと落ち着いた所で力を入れたままの右手に目を向けた。


「よく頑張ったな。お前」

一緒に戦ってきた相棒の変わり果てた姿を辛そうに見つめる。藤堂の愛刀は、切っ先が折れ、刃の至る所に刃毀れが生じていた。主人も刀も満身創痍である。

「あっちい…」


顔中に広がる汗だか返り血だかわからない液体を拭うため、藤堂は鉢金を外して傍らに置いた。
懐から純白の手拭いを取り出し、急いで額を拭う。
屋敷の中からはまだ悲鳴や刀の擦れ合う音が聞こえている。


(座ってる場合じゃない!早く加勢しないと!!)

藤堂は限界の体に鞭を打ち、横たわっている浪士を手で押しやり立ち上がった。


「よっしゃあ!!」


気合の声と共に颯爽と屋敷に入っていく藤堂。

中庭には、彼が斬った浪人と鉢金が残されていた。



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