幕末異聞―弐―
「一階でどんなに浪士を斬ったって元を断たんと埒が明かんやろ!それにおかしいねん」
「おかしい?!」
「近藤局長と総司がいて一階がこないな事になるのはおかしいんや」
「…」
今まで気にも掛けなかったが、自分たちを取り囲む浪士の数を見て藤堂はあっと声を漏らした。
「嫌な感じがすんねん」
二人の頬を冷たくなった汗が伝う。藤堂の体はもう鉛のように重くなり、四肢の筋肉は悲鳴を上げている。限界が近づいている事は当の本人が一番よくわかっていた。
「全く…。人使いが荒いんだから」
藤堂は、ふうっと大げさにため息を吐いて後ろ手に楓の背中を押し出した。
上体を押された事で勢い付いた楓の体は、数歩前進する。
背中から楓の体温が消えた事を確認した藤堂は、裏階段の方に逃げようとする隊士を追った。
「俺もそんなに余裕ないんだからな!早くしてくれよ!!」
「ふん。わかっとるわ」
捨て台詞を残し、闇に消えていく藤堂の背中を横目で見送った楓は、表階段に残った浪士を指差した。