幕末異聞―弐―


――三条木屋町 四国屋


「……そんな」


祇園町会所を出て半刻が過ぎた頃、土方率いる四国屋組は愕然としていた。


「どうやら…ここにはいないようです」

四国屋の亭主と女将は土足で入り込んできた新撰組を帳場からじっと見守る。

「馬鹿なッ!!もう一度よく探せ!絶対にどこかに隠れているはずだ!!」

二十三名の隊士は、意地になっている土方に物申すこともできず、何度探しても変わりない屋敷内を再び捜索し始めた。

「おい!!」


「へ…へえ!」

土方は帳場に詰め寄り、卓越しに亭主の胸倉を掴んで自分に引き寄せた。

「吐けッ!!吉田と桂を何処に隠してんだオラァッ!!」

「ひッ…しし、知りまへん!本当に知りまへん!!」

土方の迫力に亭主は泡を吹きながら涙目で訴える。
その光景を見ている隊士たちは、流石に理不尽過ぎる振る舞いだと心の中では思っているが、相手が土方とあっては知らん顔をするしかない。



「おいおい副長!そりゃねーんじゃねーの?」

緊迫した店の中に響いた勇気ある一声に全ての隊士が体を硬直させた。


「…あんだと?」

胸倉は掴んだまま、鋭い目を店主から声に方向に移す土方。その目には殺意が籠っていた。



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