幕末異聞―弐―
――なんで部屋が傾いてるんだろう?違う。傾いてるのは…私だ
今日は何人斬ったのか自分でも覚えていない。
でも三十人近くいた浪士が今は目の前にいる二人だけ。
これなら大丈夫。今の私でも斬れるはず。咳さえ止まれば…。
「お前、労咳だろう」
「……え?」
何を言っているんだ吉田?
…私が……労咳?
「…一体何の冗談ですか?」
「冗談でそんなことを言っても仕方あるまい。哀れな奴だ」
やめろ。笑うな。
「はっ!!私が哀れというのなら、志半ばで殺される貴方はもっと可哀想だ」
「ふん。口と体が合ってないぞ」
知ってるさ。
自分が不利にある事ぐらい自分が一番よく知ってる。
天然理心流の基本形、平正眼の構えすらろくに取れない自分が情けない。でもこの男を斬らなくては。
「いいのか?俺は病人だって容赦しない」
吉田の構えは下段八相。狭い場所では有利になり易い形だ。
「黙れ」
呼吸は少し楽になった。咳も少しの間なら何とかなりそうだ。
先手を取ろう。