幕末異聞―弐―
――ダンッ!!
――ガキイィッ!
踏み出しは完璧だった。だけど、そう易々と斬らせてくれる訳はない。
今一番敬遠したい鍔競り合いに持っていかれた。吉田の意図的な行動だろう。
「くっくっく。甘い」
「…っ?!!」
突然、腹に激痛が走った。間を空けず背中にも鈍い痛みが走る。
「ゲホッ!!ゴホッゴホッゴホッ!!!」
咳が息を吸う暇も与えてくれない。
背中に衝撃を受けた事で咳は酷くなっていく。
「労咳とわかった相手に俺が二回も同じ鍔競り合いなんかすると思ったか?」
何故か吉田が随分遠い場所にいる。
…そうか、私は腹を蹴られたんだ。
「はッゲホゲホッ!!くッ…!」
「苦しいだろう?」
吉田が歪んでいる。
目の前でチカチカ星が瞬いていた。
不思議だ。夜空なんてどこにもないのに…。
――ガンッ
「…ッ痛!!!」
頭に激痛が走る。
きっと壁に頭を打ち付けられたんだ。今更自分が壁に衝突していたことに気がつく。
目の前にはパラパラと壁から落ちてきた細かい粒が舞っていた。
雪みたいに綺麗な粒。
今そんな事を考えている私は多分狂っているのだろう。
「お前は俺の大事な仲間を殺した。楽には死なせない!」
大きな手が迫ってきたかと思うと、急に喉が締め付けられた。
「…ぐ……っ!!」
声が出ない。呼吸もできない。頭が痛い。
もう意識を失った方がましだ。
だが、生に対する本能なのか、なかなか意識は飛んでくれない。
厄介だ。