幕末異聞―弐―
――ガキッ!!キンッ!キンッ!!
突き、袈裟、一文字、小手。ほぼ全ての斬り方をがむしゃらに混ぜ込んで繰り出す楓。
成人男性でも、大太刀でここまで連続して技を出すのは無理に近い。間合いを空けず吉田に斬りかかる。
二人の刀が接触するたびに、線香花火のように火花が散っていた。
「はは!防御から入る剣術なんてうちの野良剣法には勝てん!」
これだけ動いても息一つ切らさない楓に、吉田の顔は引きつった。
「まさか、鬼の子に二人も会えるなんて思っても見なかったな」
吉田は楓が刀を振り下ろして俯く一瞬の間に、刀から片手を離し、懐を探った。
「!!!」
――シャッ!
スッと楓がかわされた刀を振り上げようとした時、一筋の光が目を眩ませる。
「テ…メェッ!!!」
急に視界が真っ白になり、目を覆うしかない楓。
その期を吉田が逃すはずがなかった。
吉田の手には、小さな懐刀が抜き身の状態で握られていた。楓の一瞬の隙を突いて取り出した懐刀。最高の機を迎えた吉田は、鼻で笑う。
「やはり不可能は不可能だ!!死ね!!!」
「…っ!!?」
――ドス…
刀同士ではない、何かがぶつかる鈍い音。同時に、畳を走り回る足音も止んだ。
――ポッ…ヒタ……
足音の代わりに響くのは、液体が固いモノの上に落ちる音だった。
「ぐっ…」
喉から空気が漏れているような微かな唸り声。
「あの状況で瞬時に急所を外せるとは…。本当に恐ろしい奴だ」
汚らわしいモノのように楓を睨むのは吉田。手には今出たばかりの鮮血で染まった懐刀を持っている。