幕末異聞―弐―
――ズ…
楓の応急処置が終わる頃、肉と刀が擦れ合う何とも気分の悪い感触を味経て、吉田は大刀を太腿から抜いた。
厚い生地の平袴から血が滲む。
吉田も相当の深手を負わされたようだ。
「へ…へへ。こりゃ血の量が多い方が勝ちやな」
「どちらか一人が死ねばそんな持久戦に縺れることもなかろう」
吉田は楓の大太刀を握る。
元々楓よりも腕の長い吉田が大太刀を持ったことで、更に戦況は吉田有利となった。唯一の救いは、吉田の右足がほとんど機能していないという事だろう。
「ちっ。こいつの刀は軽いし細身やから使いたないんやけど…背に腹は変えられんってな」
小さな声で不満を漏らしながら近くに落ちていた刀を拾う楓。
彼女が手にしたのは、沖田の愛刀・加州住清光。普段持っている大刀の実に三分の一程度の重さしかなく、楓にとっては扱いにくい刀だった。
止まることを知らない二人の血は、畳に小さな血溜りを作っている。
――ポタ…ポタ……
と、水溜りに落ちる雨のような音を立てる血の雫を頭で数える二人。
((…五…六…七…))
両者、刀をクっと握り込む。
――ここで死ぬわけにはいかない。
仲間を生きて帰すため。
仲間の無念を晴らすため。
どちらの思いが勝るかは、次の一太刀で決まる。