幕末異聞―弐―
「永倉君!遅れてすまない。近藤さんは?!」
永倉の目をまっすぐ見据えた土方が、息を切らせて質問する。
「奥の間にいます!」
鈍った頭でようやく援軍が来たのだと理解した永倉は、生き返ったように声を張る。
「わかった。君は早くその手を処置してもらえ!」
「……手?」
そう言い残して奥の間へと走り去る土方の背を見送ってから、永倉は半刻以上上げていた刀をようやく下ろした。
「…あ〜、俺怪我してたんだ」
曲がって鞘に収めることの出来ない刀を左手に持ち、永倉は右手の手を見る。
彼の親指の付け根はパックリと裂け血が流れ出ていた。
(夢中で気がつかなかった)
改めて自分の周りを見回すと、廊下に立っている人間は永倉ただ一人だった。
「こんな中で生き延びたのか」
現実を落ち着いて見れるようになった永倉は、廊下に折り重なる浪士たちを見て息を呑んだ。
――キンッ!ドシャ…
「ぬおおぉおおッ!!」
自分の過ちをぶつけるように浪士を次々となぎ倒していく近藤。目は血走り、瞳孔が開いている。
「な、なんて奴だ!!人間じゃねぇ!」
バタバタと倒される仲間の浪士を見て恐れをなした者たちが近藤に背を向けて走り出した。