幕末異聞―弐―
“オラーッ!!グズグズするな!早く来い!!”
“出入口を固めろ!後から来た十人は怪我人救護と死体を外に運びだせ!”
二階の大部屋の窓から風に乗って大勢の足音と怒鳴り声が聞こえてきた。
「…援軍か」
吉田は血が九滴滴った所で、数えるのを止めて外からの声に耳を傾けた。
「…そうらしいな」
おそらく、四国屋を捜索していた土方組だろうと推測した楓は、窓を睨んだ。
「どないすんねん?もう時期、力の有り余った筋肉馬鹿がぎょうさん来よるで」
「ふっ」
何かを企んでいるのか、吉田は刀を構えたまま鼻で笑う。
新撰組の援軍はもうそこまで近づいている。
「こうするのさ」
――シュッ!!
何かが風を切る音。
吉田は最後の抵抗として、一か八か持っていた大太刀を槍投げをするように思いっきり投げた。
援軍の足音を聞き、心の奥底でほっとしていた楓は、予想だにしなかった吉田の行動に驚いた。
――カシャーン…
頭より先に体が反応して、猛スピードで向かってくる刀を打ち落とす事に成功した楓。だが、その間に、正面にいた吉田は忽然と姿を消していた。
「クソッ!吉田ぁーー!!」
楓は二階中に響き渡るように大声で吉田を探す。
吉田がいた辺りをくま無く探す楓だが、どこにもいる形跡はなかった。
「!」
そんな中、楓は畳に真新しい血痕がついている事に気が付く。その血痕は、一直線にある場所へと繋がっていた。
「…裏庭か」
楓は安定しない足取りで裏庭の真上にある窓から顔を出す。
しかし、そこにはもう誰もおらず、仲間の隊士の亡骸だけが残っていた。