幕末異聞―弐―
「生きていたのか!?」
桂は親友の生きた姿を見て、すぐさま駆け寄って肩を貸す。
「くく。どうにか…な」
血を吸って重くなった着物を見るだけで、屋敷の中がどれだけ酷い状況にあるのか容易に想像できる。
桂は一旦吉田を壁を背にして座らせ、何処かに怪我がないか調べ始めた。
「…!これは……」
桂は自分の目を疑った。
「ふふふ。…いい傷だろ?生かさず殺さずの丁度いい傷だ」
吉田は目を開けるのも億劫になったのか、目を瞑ったままニヤっと笑う。
「…大丈夫だ!すぐにどこか近くの藩邸に連れてって処置してやる!」
――そんなことをしてももう手遅れだ。
桂にはそれが解っていた。
右大腿部からの大量出血。
鮮紅色の血。
おそらく、この出血は今に始まったことではないだろう。
だとしたら、もう時期吉田は…。
「必ず助けてやる!!目を開けていろ!」
そうと解っていても万が一の確率に縋りたい桂は、懐から手拭いを出し、出血部分を圧迫して何とか血を止めようとする。
「…小五郎」
「待ってろ!もう時期止まるから!」
「小五郎」
「いま…今助け「小五郎!!」
必死になって自分を介抱する桂を目を開けて優しく見つめる吉田。
「…もういい。手遅れだ」
「な、何を!!縁起でもない事を言うな!」
桂は目に涙を溜めて赤く染まっていく手拭をギュッと握り締めた。
「お前は藩邸に戻れ」
「断る!!生きてるお前を見捨てて俺だけ逃げるなんてできない!!」
「…じゃあ殺せ」
「……へ?」
吉田は震える手で呆けている桂の腰帯から刀を鞘ごと抜き取った。