幕末異聞―弐―
「後は頼んだじゃねーよ猪女。これは貸しだ」
「!!!?」
自分の背後からの声に浪士は怯えた表情で後ろを振り返ろうとしたその時、
――ザンッ!
強い閃光が浪士の首元を通過していった。
それと同時に、浪士の首と胴は分離された。おそらく、即死だろう。
浪士の首を落とした人物は、死体をどけ、楓の傍までやってきた。
「ふん。元々はあんたの読み違いが起こしたことやろ。貸しなんてよお言えたもんやな」
「黙れ。…おめぇ、珍しく怪我してんのか?」
窓から入る月明かりに照らされたのは、眉を顰めた土方歳三だった。
「大した事あらへん。それよりそこでのびてる総司を先に運び出したれ。おそらく熱病にかかっとる」
震える腕を持ち上げ、倒れている浪士の中で壁にもたれてぐったりしている沖田を示す楓。
「…総司?!!」
変わり果てた沖田の姿に駆け寄ろうとしたが、生きているか死んでいるかも解らない者の様子を見に行くより、生きた者を一刻も早く運び出すのが先決ではないかと考え、土方は楓の腕を引いた。
「総司は生きとる。何回も言わせるな。行け!」
楓は土方の手を振り払って、鬱陶しそうに睨んだ。
「……本当に大丈夫なんだな?」
自分の考えを全て楓に網羅されてしまった土方は、立ち上がって背を向ける。