幕末異聞―弐―
「副長!大丈夫ですよ!!」
「「?」」
土方と楓は、屋敷全体を振動させて裏階段を上ってくる影に気が付いた。
「楓は俺がおぶっていきますから!総司を頼みます!!」
「原田君か」
壊された襖を遠慮なく踏みつけて部屋に入ってきたのは、提灯と鋭く光る槍を持った原田左之助であった。
彼の後ろからは続々と浅葱の羽織を着た隊士が裏階段で控えていた。
「…なんや。終わったんか?」
ふうっと息を吐いて目を閉じる楓。そんな楓に原田が近づき、顔をくしゃくしゃにして笑う。
「ああ!お前たちの勝ちだ!!よくがんばったな!!」
原田は槍を置いて、楓の頭をこね繰り回した。
「…痛いわボケ。はよおぶれや」
「相変わらず可愛くねーなー」
「血まみれの女に可愛気あったら逆に不気味やろ」
ふっと安心感から自然と零れた笑みを浮かべたまま、楓の呼吸は小さく規則的なものへと変わった。
「…本当、可愛くねー野郎だ」
土方は沖田を背負って階段を下りていく。
「へへ!でも、かっこいい。でしょ?」
軽々と楓を背負った原田が後に続く。
「ふん」
背を向けたままの土方の表情は見えなかったが、おそらく笑っているのだろう。
(可愛げないのはお互い様だな)
原田は土方に気づかれないように声を殺して笑った。