幕末異聞―弐―
土方が階段から下りると、そこには近藤と永倉がいた。
「総司!赤城君!!」
近藤は手の防具を外し、背負われた沖田と楓の肩に触れる。
「近藤さん、大丈夫だ。二人とも生きてる」
「そ…そうか」
心配そうに二人の顔を覗き込む近藤を通り越し、土方と原田は井戸へ向かった。
「…また珍しい病人を背負われてますな」
井戸のある中庭で、負傷した隊士と倒幕派側の浪士に囲まれた男が包帯を手に土方を横目で見る。
「山崎君。どうやら総司が熱病にかかったらしい。処置はどうしたらいいのだ?」
中庭で負傷者の面倒を見ていたのは、ついさっき池田屋への出動要請を受けた監察方の山崎蒸であった。
「とにかく防具と衣服を脱がせて水を掛けてください!!こっちが片付いたらすぐに行きます!」
到着して早々、引っ切り無しに運ばれてくる負傷者の治療に追われている山崎は、とにかく水を掛けるように指示を出す。
「よし。わかった!」
土方は近くを歩いている隊士を呼び止め、井戸から水を運んで来るよう命令した。
「山崎――!楓も負傷してんだー!何とかしてやってくれー!!」
器用に負傷者の間を縫って走ってきたのは、左肩を血に染めた原田だった。
「……猪女が?」
山崎は、一緒に救護に当たっている隊士に後を任せ、急いで原田の背中側に回る。
「…ほんまかいな?!」
原田に背負われた小さな体は、確かに赤城楓だった。
原田の羽織に付着した血液の量から見て相当危険な状態と判断した山崎は、すぐさま消毒薬と自分の着ていた着物を破き、腕の付け根をきつく縛る。