幕末異聞―弐―

「おい!山崎!!楓はどうなんだ?!」

「わからへん!けど、こんだけ深い傷や。助からんやもしれん…」

「こ…こいつに限ってそんな…」

「どんなに気張ってたって強くたって、所詮は人間や!当たり前に死ぬんじゃ!!」

今まで山崎が感情を露にした所など見たことの無かった原田や、近くにいた隊士たちは、息を呑んだ。


「…取り乱してすんません。原田先生、桶一杯に水を汲んできてくれませんか?」


「あ…ああ。わかった」

楓を背中から静かに下ろした原田は、土間に置いてあった空の桶を手に、全速力で井戸を目指して走っていった。



「冗談やない。お前の死に目なんか会いとないわ。末代まで祟られそうやからな!」

山崎は止血を試みたが、楓の血が止まることは無い。

段々と白く冷たくなる楓の周りには、いつの間にか近藤、永倉をはじめとするたくさんの隊士が集まっていた。




「赤城楓!!!いつまで寝とる気や!!」



楓の前では決して口にしなかった彼女の名前。


(お前が起きるなら何度でも叫んだる。

だからはよ起きぃ…)





――お前の帰る場所は此処にあんねんぞ?






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