幕末異聞―弐―
「何だ、まだ口開く元気があったんか?」
「あ!山崎さん!!」
楓が目を覚ましてから程なく、負傷者の様子を見に来た山崎が呆れ顔で元気な二人を見据えた。
「あんたらだけやで?そない元気に話しとんのは」
「ふん。別にこんなもん怪我の内にも入らん」
(ほんまこの猪かわいくない。誰が止血した思っとんねん…)
血の気が足りない顔で一丁前に意地を張る楓を見て、山崎は安堵と怒りが混ざり合った溜息を吐く。
「あはは!そんな包帯グルグルに捲いてよく言いますよ!」
「誰のせいでこうなった思っとんのや?!!今死ね!!すぐ死ね!!!」
「嫌ですぅ〜!そもそも助けに来て欲しいなんて一言も言ってないじゃないですか!!」
「あーもーええ加減にしいっ!!!」
他の負傷者に迷惑をかけ兼ねない沖田と楓の醜い言い争いに、物静かなはずの山崎が声を荒げた。普段と様子の違う山崎に、喧嘩をしていた楓と沖田を始め重傷者以外の全員がそこ一点に注目する。
「ええか!そんな下らん言い争いできるのも、全部“生きてる”いう事が前提なのを忘れんな!!
二人とも生きてる。それで充分やろ?」
「「…」」
笑う。怒る。今自分のしている全ての事は、生きているからこそ出来る。
山崎の言葉を聞いた者たちは、自分の負った傷に目を落とした。
さっきまでは痛いとしか感じられなかった傷が、心成しか痛さ以外の何か温かいモノを感じられるようになっていた。