幕末異聞―弐―
――祇園 八坂神社
すっかり祭ムード一色になった四条通を、浮かない顔で石段から望める男がいた。
「おっちゃん!!浮かん顔しとんな〜!」
「なんや?!女に振られたんか?」
「うちらが慰めたろか?」
石段を駆け下りてきた地元の子供たちが、興味本意で背を丸めている男に話しかける。
「おぉ〜。おんしらは優しいのぉ」
がっくりと落としていた頭を持ち上げて力なく笑う男。
子供たちは、顔を見合わせて頷くと、男の周りに腰掛けた。
「元気出しい!そんな髪がモジャモジャでもいつか好き言うてくれる女が現れるわ」
「そうやで!まずその汚い格好を何とかすればきっと変わる!」
鼻水を垂らした男の子が、男の薄汚れた着物を掴んでブンブンと揺らす。
「いや、別に女子にふられたわけがやないが…。っていうか、おまんらわしんこと慰めてるが?ほれとも貶してるが?!!」
「「「両方」」」
「こんガキども「あ!!!」
男の言葉を無視して、空高く昇った太陽に目を顰めながら女の子が四条通を指差した。
女の子が差す場所を見た瞬間、男は目を疑った。
「なんじゃ、あの人垣は?」
四条通の両端に人が溢れている。つい数分前までは無かった光景だ。
男は自分の目がおかしいのかと思い、手で目を擦ってもう一度見てみたが、人垣は消えるどころか、益々長くなっていた。
「おっちゃん知らんの?昨日のこと」
男のすぐ隣に座っていた六歳くらいの男の子が鼻で笑う。
「壬生狼が三条小橋で悪い奴をいっぱい捕まえたんやて」
「…」