幕末異聞―弐―
「初めまして。松本良順と申します。
今日付けで松平様より新撰組の専属医となりました。これからは定期的に出入りをすると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「お…沖田総司です。こちらこそよろしくお願いします」
神経質そうな口調で一語一語丁寧に言葉を紡ぐ松本。
それに吊られて沖田もいつになく畏まる。
土方は、挨拶を済ませた二人を見て、十分間を置き、口を開いた。
「松本先生をわざわざお前に合わせたのには理由がある」
「…」
土方の何か大きな意味を含んだ言葉に、沖田の顔が一瞬影を強めた。
(…労咳)
昨夜の吉田の言葉を真に受けるわけではないが、自分の体に変調の兆しが見えている事は沖田自身が一番良く解っていた。更にこのタイミングでの土方の計らい。
沖田の表情に無意識に不安の色が滲み出てしまっていた。
「健康診断だ」
「………はい?」
土方はしてやったり顔で沖田を見下すようににやりと笑った。
「いやね、此処は衛生上なかなか酷い環境をしていてね。隊士全員の健康診断をするように局長直々のご命令なんですよ。ということで、私の担当はたまたま沖田殿になったというわけです。ハイ」
松本が剃り上がった頭と、厳つい顔には似合わない笑顔で事の詳細を解りやすく説明した。
「け…健康診断ですか?!」
「そうだよ。まだ話してもいねーのに何を勝手に思い込んだのか知らねーが、取りこし苦労だ宗次郎!わははは!」
久しぶりに沖田を破顔させることに成功した土方は、彼の名をわざと幼名で呼んだ。