幕末異聞―弐―

「大変失礼な事を申しますが、そんなのは偽善です」

「偽善…」


「貴方の言うように、理解し合いたいと思うのなら、何故貴方は黙っているのですか?何故自分から積極的にならず、受身の態勢で待っているのです?」


「…それは」

「貴方は近藤局長に付いていくと言った。近藤局長は松平候に並々ならぬ、一種の信仰心のような気持ちをお持ちだ。しかし、会津藩は幕府の配下。当然、幕府に対する反乱分子の殲滅を命じます。
さて、沖田さん。貴方はどうなされますか?」

「当然、近藤さんに従います!」

沖田は当然の如く、力強い口調で松本の質問に即答する。

「そこが矛盾しているんです」

「?」

松本は沖田の模範解答を聞いて、口を弧に歪めた。

「貴方はさっき幕府に反対する者を斬るだけが正解かと疑問を抱いた。しかし、今の質問には、反乱分子を殲滅しろという幕府の命に従うと言った」


「…確かに矛盾してますね?」

沖田は段々と複雑になっていく話に必死で頭を回転させている。

「そういう事です」

「???」

「物事を変えようとするなら、多かれ少なかれ異端でなければならないのです。つまり、それ相応の覚悟が必要ということですよ。
貴方は新撰組の掟を破ってまで倒幕派と理解し合う覚悟はありますか?」


「………」


目を頻りに動かして苦悩する沖田だったが、結局彼の首は横に動いた。

「そこまでの覚悟が無いなら、余計なことを考えるのは止した方がいいでしょう。自分の寿命を縮めることになり兼ねませんからね」

「そう…ですね」

沖田は表情を隠すように、ほどかれた髪が顔にかかるように俯く。


「“変える”とは、真に難儀な事なのです」


静かに流れる時間の中で、松本と沖田はそっれきり、何も言わずに各々の考えを廻らせていた。




< 236 / 349 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop