幕末異聞―弐―
「…晋作」
「…」
晋作は、顔を手で覆ったまま返事はしないが、確実に玄瑞の声に耳を傾けている。
「俺は京都に行く」
「!!?」
「もう我慢ならぬ!!幕府の身勝手な振る舞い!このまま黙っているわけにはいかん!!これは、俺の隊の全員で決めたことだ!
誰に何と言われようが行く!!」
玄瑞は相談ではなく、決意を晋作にぶつける。
その目は何事にも揺らがない強い闘志を湛えているように見えた。
「玄瑞!!落ち着け!今京都に行くなんて、幕府の思うツボだ!!あっちだって挙兵することぐらい見越しているはず。待ち伏せているに決まってる!!」
「それがどうした!!」
「お前はこれ以上犠牲を出す気か?!!負け戦に勇ましく出て行く事が誇りじゃねーだろ!隊長がそんな血迷ったこと言ってどうすんだよ!!」
「黙れ!!これ以上俺を愚弄するようなら古くからの友人であるお前でも斬るぞ!
俺は仲間が死んでいくのを黙って見てるのはもう我慢ならんのだ!期を待てと誰もが言うが、その期とは一体いつなんだ?!いつになったら胸を張って死んでいった仲間たちの墓前に立てるのだ?!!」
「…玄瑞」
玄瑞は腰に下げている大小の刀の一本に手をかけ、鍔を親指で押し出す動作をしてみせた。今はまだ威嚇であるが、目を血走らせた玄瑞は何をするかわからないという、大変危うい状態であった。