幕末異聞―弐―
「晋作、一つ頼みがある」


「…何だ?」

「俺が死んだら、生き残った者たちをお前の奇兵隊に入れてやってくれ」

玄瑞は刀から手を離し、まっすぐ晋作の目を見た。


「…」


玄瑞の遺言となるかもしれない依頼に何の反応も示さず、晋作は明後日の方角を向いている。
そろそろ収穫時期となる夏野菜の畑を見下ろしながら、一向に玄瑞の方を向こうとしない晋作に、無視され続けている玄瑞は不意に噴き出してしまった。


「ぷっ!くくくっ!!お前がそのような態度をとるということは、了解したと同じ!恩にきるぞ晋作!」

「勝手に決めるな馬鹿」

ふんっと鼻で笑って腕組みをする晋作。

「がっははははは!!では頼んだぞ!」

「人の話を聞けっ!!」

「では、行ってくる!」

分の悪い戦に出る前だというのに、玄瑞は眩しいくらいの清々しい笑顔を見せて晋作に背を向けた。





「…悪いな玄瑞。お前の頼み、俺じゃきけねーかもしれねぇ」


晋作は鍬を門前に置くと、晋作は高杉家の門を素通りして村の集会所へと歩を進めた。




――六月十八日 長州藩士・久坂玄瑞 東上
同日 長州藩士・高杉晋作 奇兵隊徴集



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