幕末異聞―弐―
隊士たちが戦の準備で屯所内を奔走している頃、ある一室では異様な空気が流れていた。
「先生、総司の容態はどうなんでしょう?」
第一声で苦悶の声を上げたのは、この部屋の主である近藤であった。
「容態は極めて良好と言えますな」
僧侶のように見事な肌色の頭を数回撫でて近藤の問いに柔らかい物腰で返答するのは、楓に変人扱いされている松本良順。
先刻、沖田の診察を終え近藤の部屋に経過報告に来ていたのだ。
「では、ただの風邪ということでしょうか?」
そうであって欲しいと言わんばかりに、勢いを付けて身を乗り出したのは、松本と対称に正座している山南。
「いや、それと断定は…」
「総司は昔から胸の辺りが弱いんです。きっと今回もそれが出ただけだ」
松本が頭で言葉を考えている間に口を挟んだのは山南の隣に胡坐をかいて座る土方だった。
「いやいや、お待ちくだされお二方。沖田さんを心配する気持ちはわかります。だから私も正直に、在りのままを話します」
「「「…」」」
頭の中で言うことを整理しているのか、黙ったまま天井を見上げている松本。その姿を固唾を呑んで見守る三人。
数十秒経って、ようやく目線を三人に戻した松本は、目を細めてゆっくりと話し始めた。