幕末異聞―弐―
「単刀直入に言いますと、沖田さんの今の状態では労咳と風邪の区別は付きません。もしかしたら、土方殿の言っている持病かもしれない。残酷な事を言うようで大変申し訳ないとは思うのですが、労咳ならばもっと重篤化してからでないと解らないのです」
「…ということは、今は見守るしかないということですね?」
いち早く松本の話を理解した山南が確認をするように松本に尋ねた。
「残念ながら、仰るとおりです。労咳ならば、まず発熱が続きます。しかし、熱と言いましてもごく僅かなものです。それ故、末期になるまで診断できないのが現状。
仮に早期発見できたとしても、今の日本には治療の手立てがございません」
「…そんなっ」
近藤は厳つい顔を顰め、松本を悲しそうな目で見ていた。
「おい、近藤さん!まだ総司が労咳だと決まったわけじゃないんだ!そんな景気の悪そうな顔するなよ縁起でもねぇ」
そう言って近藤を諌めた土方だが、彼もまた不安に顔を歪めていた。
「そうですよ近藤殿。沖田さんは今のところ健康以上に健康です。今回の出陣も相当の気合を入れられております。是非お供させてあげてください」
三人の沈みきった表情を見ていられなくなった松本は、場を明るくするため、沖田の元気な様子を伝えた。
「そうですか!総司、あいつは本当に…」
最近、慌しく動き始めた幕府に呼び出される事の多かった新撰組幹部の三人は、沖田や怪我人の見舞いに行く暇が全く無かった。
近藤は、松本を介して伝わる沖田の姿に優しい笑みを溢していた。