幕末異聞―弐―


「「「…」」」


外界の音が完全に遮断された三人の耳は松本の声に集中していた。
この後一体どんな言葉が続くのか?
不安が彼らを包み込む。

近藤、土方、山南は松本の深刻な表情を見守る。松本は彼らの視線を受け止めつつ額に手を当て目を閉じた。


「赤城殿の左腕は、ほとんど力が入っていない」



「…なんだと?」


今までにないくらい険悪な顔で松本を睨みつける土方。しかし、吊り上げた目には明らかな動揺の色が見えていた。
他の二人も同様、無敵と思って疑わなかった赤城楓のまさかの事態に戸惑っている。

「私は以前、西洋医学の書物を読んだ事があります。それには、腕の中には動きを司る神経というものがいくつも存在するのだと記してある。
赤城殿の傷の具合から、刺された時に刀が肩口を貫通したことがわかります。恐らく、その一撃で何処かしらの神経が傷ついてしまった。あるいは断裂してしまったのでしょう。もし、神経が断裂してしまっていたら、彼女の左腕は元の状態に戻ることはありません」

下手に期待を持たせないように、松本は敢えて強く断言をした。



「…ははは……考えてみれば、女子が刀を振るってるなんておかしな話じゃないか」


部屋の中の全員が各々考えを廻らせている最中、力なく笑って意味深な言葉を呟いたのは近藤だった。


「近藤さん?」

「…局長?」

土方と山南は肩を落とし、歯を食いしばっている近藤の様子を心配そうに見つめる。
近藤は、うん。と自分の中で何かを納得したように首を数回上下に振った後、土方と山南を見つめた。








「赤城君を、除隊させよう」




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