幕末異聞―弐―
「近藤さん!!!」
「何を言ってんだあんたは?!!」
ガタッと同時に片膝を立てて一歩前進した山南と土方の姿に動揺することなく、近藤は石のように動かなくなってしまった。
「自分の言ってることが解ってるのか?!!新撰組にとって今が一番大事な時だってのに…。そんな時に貴重な戦力を失うわけにはいかねぇ!!
俺は断固反対だ!」
顔を般若のお面のようにくしゃくしゃにして怒りと焦りを顕わにする土方の隣で、山南も眉を顰めていた。
「土方君の言う通りです近藤さん!松本先生が言っていることが事実だとしても、楓君はしっかり隊務をこなしています。それは報告書を見ても解ること!
今彼女を失うのは新撰組にとって多大な損害です!!」
土方と山南の主張に耳を傾けていた松本は、動きを止めていた近藤の広い背中が大きく上下したのを横目で確認した。
「…君たちの言っている事が正しいのは解っている」
「じゃあ何故?!!」
苛立ちから、無意識に貧乏揺すりをする土方が近藤を睨みつける。
「赤城君は…あの娘は女子なのだ。新撰組の隊士である前に、一人の女子なのだ」
「だから何だって言うんだ?!あいつは自分の意思で此処にいるんだ!
女だろうが何だろうが関係ねぇ!!」
土方はいつか蕎麦屋で聞いた楓の決意を頭の中で何度も繰り返し反復しながら近藤に猛抗議した。