幕末異聞―弐―
「彼女が武士の心を持っているのは重々解っておる。しかし、現実は別だ。
あの娘がどんなに努力しようと力では決して男には勝てん。ましてや、手負いの今のままでは戦場に出ても死を早めるだけだ」
「そんなの、今まで死んでいった隊士だって同じだったろう!!
怪我してても何でも、敵に向かって散っていく。新撰組隊士である誓いを立てた以上、あいつだけ例外というわけにはいかねぇよ!
そんなんじゃ死んだ奴らに申し訳が立たねぇだろう?!」
作戦の駒となり犠牲となった者達に並々ならぬ負い目を感じていた土方には、楓のような例外を認めるなどできるはずもなかった。
土方の心の内を理解している近藤は顔を歪めて悲しそうに目を細める。
「歳、俺はお前の気持ちを解っているつもりだ。だが、やはり女子には女子の幸せというのがあるんだ!
それはこんな戦場に出ることじゃないと俺は思うんだよ」
「「…」」
近藤の言葉に間違いはない。
誰の言っていることにも間違いはない。
その事実が彼らの口を閉じさせた。
「ちょっといいですかな?」
音もなく挙手したのは、双方の意見を黙って聞いていた松本であった。
「でしゃばるようで申し訳ありませんが、私個人の意見としては、近藤さんの意見に賛成です。
医者として、男ならまだしも、女子をあの状態のまま戦に出し続けるのは少々心が痛みます」
「松本先生…」
近藤を支持する松本の言葉が決め手となったのか、山南は頭を垂れて二人に従う姿勢を見せた。