幕末異聞―弐―
「そんでよ!三人、四人で一斉に切り掛かって来る敵を真っ暗闇の中でバッタバッタ斬ってやったのよ!!そしたら今度は二刀流の大男が迫って来やがった!」
「「「おおぉぉ!!」」」
一畳に納まる布団の周りには昂揚した声を上げる男たちが集まっていた。
「それで!?その後一体どうなったんですか!!?」
布団を囲んでいた男の一人が身を乗り出す。
「どうなったかって?決まってるだろ!
折れた刀を握り締め震える足を無理矢理一歩出し、向かってくる大男を「そんな大男いなかったぞ」
「ついでに二刀流の奴もな」
「佐之助ッ!!新八!!」
話の一番の盛り上がり所に横槍を入れたのは人集りの隙間から話の中心人物を覗く大小二つの顔だった。
「え!?そうなんですか!!?」
「じゃあ今の話は嘘なんですか!?藤堂組長!」
四方八方から騒めきの声が上がる中、騒動の元凶となった原田と永倉はにやにやと楽しそうに笑っている。
「平助〜。嘘を言っちゃいかんよ」
布団の上であぐらをかいている着流し姿の藤堂の前に永倉がしゃがむ。
六月に池田屋事変で生死を彷徨うほどの重傷を負った藤堂は、七月に入っても絶対安静を余儀なくされていた。
「上に立つ人間がそんなホラ吹き野郎じゃ駄目だよなぁ?」
がしっと窮地に追いやられた藤堂の頭に手を乗せ、原田が大口を開けて笑った。
「いでてててっ!!おい佐之!包帯見えないのか馬鹿!!
あぁー絶対傷開いた!絶対開いたよこれ。あーあー」
側頭部を包み込むように巻かれた包帯を撫でて大げさに痛がる藤堂。
「がははは!!本当はその傷も嘘なんだろ?」
「佐之、そりゃあんまりだろ」
痛がる藤堂に容赦なく突っ込みを入れる原田。それを制したのは永倉であった。
「平助。実は今日は冷やかしに来ただけじゃないんだよ」
(いや、冷やかしいらないだろう…)
なにやら意味深長な永倉の発言に藤堂は、喉まで込み上げてきた言葉を呑む。