幕末異聞―弐―
藤堂を囲む隊士たちも、永倉の言葉に何か深い意味が籠められている事に気付いていた。
全ての人間が口を閉じ、永倉に注目する。

「へへ。そんな畏まられても困るな。ただ土方さんから伝言を預かってきたってだけだよ!」

話しにくそうに頬を人差し指で掻いて、永倉は明るい声で話し出した。


「平助。お前は今回の出陣はなし…だそうだ」


「……え?」


軽い口調で言い放たれた永倉の言葉の内容に、藤堂は戸惑った。

「…俺、留守番なのか」

肩を落として心から残念がる藤堂の姿を複雑な表情を浮かべた隊士たちが見つめる。

「何だなんだ!?平助、お前まさかその状態で戦に出れると思ってたのか!!?」

空気が読めない事で有名な原田が、案の定、空気を読めていない発言をしてしまった。

「まぁ、屯所に腕のたつ奴がいてくれないと俺たち安心して戦に出れないからよ!
今回は楓も屯所待機らしいから退屈はしないよ絶対!」

藤堂の死角となる位置で永倉が原田の足を袴の上から思いっきりつねる。

「「「は?」」」


藤堂を始め、永倉、原田以外の全員が首をかしげた。

「…あの、楓って赤城楓ですよね?」

「そうだよ?」

「赤城楓…ですよね?」

「そうだって」

「あの凶暴な女ですよね?」

「そーだっつってんだろ!?」

(((…嘘だろおぉぉ!!?)))


全ての隊士が一様に目を丸くしてお互いの顔を見合わせる。

「だははは!!予想通りの反応だなオメーらッ!」

バンバンと埃を立てて畳を叩く原田の体が急にどこかへ引き寄せられた。



「その話、土方から聞いたんか?あぁ?!」



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