幕末異聞―弐―

「ああ。相当きちまってるなぁ俺」

くくくっと喉で笑い、手の中で真っ二つになった小筆を睨む土方歳三。
淀んだ気持ちを反映するように、小筆を握った土方の手はひどく力んでいた。

「力の加減もできねーなんて…。まるで猪じゃねーか」

――バンッ


「猪はあんたほど愚かやない。猪に謝れ」

「ふん。猪と同類のお前が言っても説得力の欠片もねーんだよ」

襖と柱がぶつかる音と共に現れた背後の殺気を気にする様子もなく、土方は引き出しから新しい小筆を取り出して机に向かう。

「おいコラ。どういう事か説明しいや」

「心当たりがねえ」

「とぼけんな阿呆。何でうちが屯所待機なのか教えろ言うてんねん」

「理由も何もねえ。新撰組二番隊隊士・赤城楓、本作戦において貴様に屯所護衛の任を命ずる。以上だ。下がれ、不愉快だ」

「ふざけんな！うちは戦えるっ！」

「局長命令だ！！下がれ！」

卸したての小筆を机に叩きつけ、土方はものすごい剣幕で楓に向き直る。

「…あんただけは解ってると思たんやがな」

――バシッ

無表情で一言捨て台詞を残して部屋を出ていってしまった楓を黙って見送る土方。

一人になった土方は再度机に向かい蓄まった文書を睨むが、目から入ってくる情報は全く頭に入って来なかった。