幕末異聞―弐―
夕焼け空に染まる三本木の大通りを腰に刀を下げた十四人の男たちが歩く。
皆一様に浅葱色の羽織の袖にダンダラ模様を染め抜いた隊服を着用している。
そう、新撰組一行である。
その中で、一人だけ他の隊士たちとは違う、白地に黒のダンダラ模様の隊服を身に纏っている者がいた。
「ふふ。局長が御用改めに参加するなんてどのくらい振りですかね?」
男の後ろに付いて歩いている沖田が嬉しそうに顔を覗き込む。
「はっはっは!!何たって今日は大捕り物かもしれんからな!屯所でじっとしている訳にもいくまい!」
男は快活に笑う。
副長助勤の沖田を従えて歩ける人物。その男は新撰組局長・近藤勇その人であった。
副長の土方の反対を押し切って今日の御用改めに加わったのだ。
「総司、この三本木に倒幕派指導者の桂小五郎が潜伏しているというのは確かかね?」
「はい。監察の島田さんの情報ではそうなっていますが…」
「なんだ?何か気になることでもあるのか?」
返事に渋る沖田に近藤が優しく問いかける。
「それが、『吉田屋』にいる可能性が高いというだけで、もしかしたら違う店にいるかもしれないんです。そうなると、『吉田屋』を御用改めして桂がいなかった場合、間違いなく逃げられるなって…」
彼にしては珍しく、先を見越した意見を言った。
「な〜んだ総司、お前も大人になったな!!」
これには近藤も感心する。
「だって取り逃がすと土方さんがネチネチ煩いんですよ?!」
「あ…なるほど。そっちね」
沖田の心配していた部分はそこだった。
折角褒めた近藤だが、予想していなかった沖田の言葉に幻滅する。
ゴホンっと気を取り直すように咳払いをし、話を元に戻す近藤。
「まぁ、折角監察がかき集めてきてくれた情報だ。信じようじゃないか!
それで捕り逃したら一緒に歳に怒られよう!」
沖田の頭に手を乗せ、子どもを褒めるときのようにワシャワシャと撫でる。
近藤が元気付けたり、褒める時には必ずする動作だ。
「はい!」
沖田は久しぶりに近藤の温もりを感じ、顔一杯に笑顔を作って威勢良く返事をした。