幕末異聞―弐―
(何かが足りない…)
沖田総司は内に渦巻く何とも言い難いモノが気になって仕方なかった。
先刻、会津藩の使いから新撰組へ遂に出陣命令が下った。
目指すは九条河原・銭取橋。
新撰組はそこで長州藩と剣を交えることになったのだ。
池田屋での昂ぶりをまだ忘れられないのか、隊列を成した隊士たちの士気はいつも以上に上がっていた。
だが、沖田だけは違った。
自分の後ろに続く浅葱の帯を頻りに気にしている。
「どうした?」
「いや…何だかおかしい気がして」
沖田の落ち着きのなさに隣を歩いていた斎藤が声をかけた。
「いないぞ」
「はい?」
「三人ほど」
「三人?」
斎藤は沖田の落ち着かない原因を本人より先に突き止めてしまったようだ。当人の沖田は斎藤の助言を聞き、またきょろきょろと後続を見渡し始めた。
「山南さんと平助がいないのは知ってますけど…もう一人ですか?」
「なんでやねん」
「……な?」
関西出身ではない斎藤からのまさかのつっこみに反応できない沖田。
抑揚のない“なんでやねん”に驚いていた。
「さ…斎藤さん?体調が優れないとか?」
「なんでやねん」
「……あ!年末の宴会の練習ですね!?」
「なんでやねん」
「………なんでやねん?」
どの質問に対しても“なんでやねん”しか答えなかった斎藤が、大きく首を縦に動かす。
沖田はこの言葉がきっと何かを意味するのだと思い、“なんでやねん”で連想できるものを探した。