幕末異聞―弐―

「そ…その通りだ原田君!あの馬鹿が。皆も気を付けるように!!さあ、進むぞ!」

土方の見え透いた嘘を見事に受け入れたのは原田であった。土方にとっては嬉しい誤算である。
原田のお陰でこの窮地を強引に切り抜けてしまった。結局、楓のことをうやむやにしたまま、新撰組は再び歩みだした。

「素直でよい」


斎藤は珍しく口を微かに緩め、声を殺して笑う。

「あはは!全くですね」


(言えない事情があるなら敢えて聞く必要はない)

この後、沖田が土方に問い質すことはなかった。

緩やかな風が田んぼの穂を揺らす中、新撰組は決戦の場へと確実に近づいていた。


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