幕末異聞―弐―

――御所 建礼門


ここだけを守っていれば無駄な争いは起こらない。

西郷隆盛は御所の正面入り口である、重厚な作りの建礼門を背に仁王立ちしていた。

新撰組が二条城付近で激しい戦闘を繰り広げているなど、嘘のように静かである。

「伝令!桑名、会津共に二条城を目指す長州の軍勢と交戦している模様」

御所周辺の警備に当たっていた薩摩兵士がもたらした一つの知らせに、建礼門にいた者たちはどよめく。

顔を引き締める者、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる者、自らを鼓舞する者、様々な部下の反応を一通り見た後、西郷は静かに深呼吸をした。そして、もう一度全ての部下の顔を眺め、口を開いた。

「皆の者。時期、この辺りにも倒幕を企てる者たちが来るだろう。よいか!我らの目的はこの御所と帝のお命をお守りすること!それを肝に銘じて戦うのだ。薩摩の誇りを持って!」


「「「うおおおぉッ!!」」」


右手に握った薩摩の旗を高々と掲げた西郷の姿に、薩摩藩士の昂ぶりは最高潮に達した。

手にした旗が南風になびいたと同時に、微かな硝煙の匂いが西郷の鼻を掠める。

それは、戦いの時がもう間もなくである事を知らせていた。



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