幕末異聞―弐―
突如として空に響き渡った轟音。
それは地を上下に揺さ振るほどであった。
「な…なんだ?!」
旅館を飛び出した桂は、足をその場で踏ん張り止まらざるを得なかった。
伏見の町人たちも、桂と同じく、転倒しないように道端で態勢を低くして得体の知れない音に怯えていた。
凄まじい音の残響がようやく消え去り、町の人々は様子を伺いつつ、恐る恐る空を見上げる。
「…桂殿、今のは音は一体?」
一足遅れて旅館から出てきた長州藩士たちは、不安に満ちた表情を浮かべて桂の横に並んだ。
「…」
問に対する答えの見当もつかない桂は、ただ黙って音の聞こえてきた方角の空を見上げていた。
「…嫌な予感だ」
しばらくして一言だけ呟いた桂は、見上げていた空の方向に向かって再び走りだす。
彼の見ていた空。
それは、御所へと繋がるものであった。