幕末異聞―弐―
「……っ許さぬ!…決して許さぬぞ!!」
「ああ、許しは請わぬ。地獄で殴るなりなんなり好きにすればいい。俺もすぐ行く故、先に行って待っていてくれ」
「うっ…ガハッ!!」
刃に臓物を貫かれたことで行き場を失った血液が遂に口からも吐き出された。来島を襲うのは大量の血を失った事による寒気と、久坂に対する憎悪の念。瞼が段々と重くなり、来島の視界の中に居る久坂は霞んでいた。
久坂は見るからに衰弱していく来嶋を瞬き一つせずじっと見つめた。
首を掻き斬ってしまえばもっと楽に逝かせられただろう。だが久坂は敢えて腹を刺した。
どんなに胸の内が違っていたとしても、久坂が来島を裏切った事に変わりはない。
久坂はそれを咎める言葉が欲しかったのだ。
「すまぬ…来島……すまなかった」
来島の聴覚が久坂の懺悔に反応したのかしていないのかは来島にしかわからない。
最後に一度だけ全身をピクリと痙攣させ、来島は息を引き取った。