幕末異聞―弐―
――バンッ!!
襖が開かれた。
近藤は抜刀して部屋に入る。沖田もそれに続く。
二人は部屋を見回してみるが、目当ての人物は見あたらなかった。
変わりに、三味線を持った女が一人、長持の前に座っている。
幾松だ。
――ベベン…
幾松は三味線の弦をバチで弾く。
「おい、女。ここに長州藩の男がいただろう?」
近藤は三味線を弾く幾松の前に立ち、桂の行方を訊いた。
幾松は自分を見下ろしている男に顔を向け、長い睫毛を持つ大きな二重の目を男の目に合わせた。
「さぁ?知りまへんなぁ」
目を細める幾松の表情は何とも妖艶であった。近藤は、幾松の整った綺麗な顔に一瞬見惚れるが、すぐに我に返る。
「嘘をつくな!女とて容赦はせんぞ?!」
近藤は持っていた刀を幾松に向ける。しかし幾松は全く反応しない。
「嘘なんてついてまへん。その証拠に、刀を突きつけられても怖くも何ともありまへん!」
キッと近藤を睨む幾松は誰が見ても美しいと言っただろう。
「では、貴女はここで一人で三味線の練習を?」
部屋の中を調べていた沖田が幾松に笑顔で質問した。
「そうどす」
沖田の質問に端的に答える。
近藤は、幾松の目が沖田に行っている間、彼女の後ろにある長持に注目した。
(この大きさなら大の男一人くらいは入れるか?)