幕末異聞―弐―

「平助、私たちも“やれる事”やりましょう」

「はい!」

楓の後に続いて、鶴治郎、藤堂、山南は活気を無くした人々の元へと向かった。





「何ともキレの悪い戦だったな」

先端が激しく刃こぼれしている槍を肩に担いだ原田が思わず一言零した。

「結果は勝ちなんだがな。こうも惨状を見せられちまったら素直に喜べないかもね」

原田の隣を歩く永倉は、忙しなく目を左右に動かしている。

長州藩との戦を終えた新撰組一行は、御所から帰営する途中であった。新撰組にも死傷者が出なかったわけではないが、幸い傷を負った者は皆軽傷で済んだため、即座に帰営の体制を整える事ができたのだ。

「火の勢いは相当だったようですね」

どこを見ても焼け焦げた木ばかり。その中を亡霊のように彷徨っている人々。
そんな光景を目の当りにして、沖田もいつになく真剣な表情をしている。


「…屯所は無事だろうか?」

「島田君の話では、洛西まで火は届かなかったそうだ」

後ろに続く重苦しい空気を背に受けながら、近藤と土方は火災にあった町を見渡していた。

「酷い有様だな」

「ああ。長州の奴ら、血も涙もないのか!まったく」

「そっちもそうだが、俺が言ってるのはまた別な方だよ。近藤さん」

「ぬ?」

不思議そうに何度か目をしばたかせる近藤から顔を背ける土方。その視線は後ろの隊列に向けられた。

「お前ら!なんつー陰気な顔してやがる!!そんな薄っぺらい感傷に浸ってる余力があるなら手伝ってこい!」

町全体の沈んだ空気を一蹴するような土方の怒号が響き渡る。
俯いていた隊士は体をびくりと跳ね上がらせ、町の人々も何事かと土方に注目した。

「…歳」

近藤はようやく気が付いた。土方の言葉が指していたのは、気落ちしている隊士たちの事だったのだ。

――この戦が正しかったのか間違っていたのかは自分たちが決める事ではない。
そんな事を考える時間があるなら京都守護職らしく、京の民の役に立て。

土方は隊士たちにそう伝えたかったのだ。




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