幕末異聞―弐―
「恥ずかしいならもう少し小さい声で怒ればよかったのに」
土方の迫力に静まり返った隊列から、くすくすと笑いを堪える声が聞こえてきた。
「だ…黙れ総司!!さっさと行け!」
「ふっははは!そんな顔真っ赤にして言われても!」
どうにも笑いが止まらない沖田に言われて、一同は土方の顔を見た。
「お、本当だ!副長が恥ずかしがってるぜ!」
「予想以上に注目されちゃって照れてるんですか!?」
普段は顔色の悪い土方が茹で蛸のように赤くなっているのを確認して、空かさず茶化す原田と永倉。
「…おい。あんまりふざけた事ぬかしてると今ここでぶった斬んぞ!」
「ぷっ!」
さっきの失態で学習したのだろう。土方の声は少し抑え気味の凄んだものに変わった。それが更に沖田の笑いのつぼを刺激してしまったようで、我慢しきれず今度は噴き出した。
「おい沖田」
それを今の土方が聞き逃すはずはない。地を這って沖田の鼓膜を揺らしたのは永倉たちに向けたものよりも数倍凄みを効かせた声。
「いやいや、すみません。そんな威嚇しなくてもすぐに消えますから安心してください」
土方の気迫に震え上がる隊士たちを横目に、沖田はいつもと変わらず笑顔を浮かべ飄々と答える。
「さあ、一番隊。負傷者を除き日暮れまで町のみなさんの復興作業を手伝ってください」
土方の何か言いたそうな顔に、にやりと生意気な笑みを見せ、沖田はくるりと体を反転させた。
こうも組長らしい姿を見せられては、何も言えない。土方はギリギリと歯軋りをして悔しさに耐えるしかなかった。
「三番、五番、十番、は一番隊と共に復興作業を手伝え」
「「「おお!」」」
寸劇が終わったのを確かめると、沖田の指示に冷静沈着な斎藤が一言付け加える。
「じゃあ、俺ら二番隊と残りの隊は怪我人の治療に回るぞ」
「「「はっ!」」」
永倉の指示を受けた二番隊は速やかに町の中へと散らばっていった。