幕末異聞―弐―
「あともう一つ。新規隊士募集のため、藤堂君と九番隊の津川君を江戸に行かせる事にしたよ」
「平助は江戸の千葉道場に通っていましたから、きっとたくさん集められると考えた結果です」
江戸の千葉道場といえば、剣術指導の名門であり、志を高くもった若者が多い。
「うむ。平助ならきっと立派に勤めを果たしてくれるだろう!」
隊務以外で初めての大仕事。結果はどうあれ、若い平助にはきっといい経験になる。二人の人選に異議などありはしなかった。
「…何を考えていた?」
「え?」
話は終わったはずだった。しかし、二人は席を立とうとしない。元々勘のいい二人だ。俺の態度から何か嗅ぎつけたのだろう。
いい機会だ。言ってしまおう…
「赤城君の除…隊の件だ」
「…」
言おうと決めたその時から予想はついていた。眉間と額に皺を寄せ、片眉だけをぴくりと動かした歳の顔。心底気に食わないと思っている時の顔だ。
「はは…。土方くん、お茶でもいただこうか。山崎君!」
急に張り詰めた空気を敏感に察知した山南は、とりあえず穏便に話を進めようと努力している。
「総長、お呼びでしょうか?」
どこからともなく現れた山崎君が閉じられた襖の向こうから尋ねてきた。
「すまないがお茶を煎れてもらえるかな?」
「すぐにお持ちします」
足音はしなかったが、短い返事と共に、確実に人の気配が消えた。