幕末異聞―弐―
短く笑った二人は、誰に言われるわけでもなく、竹刀を構えた。
両者防具は一切つけておらず、楓が入隊前に沖田と試合った時を彷彿させる。
二人を止める者はいない。
止められないのだ。目に見えるはずのない殺気が、そこにいる全ての隊士に見えていた。
本当に殺そうとしているのではないか?
永倉は睨み合う楓と沖田の目を見て、冷や汗を滴らせていた。狂気を孕んだ二人の目は、完全にお互いしか写していない。
「どっちが狩るか狩られるか、今日こそ雌雄を決しようやないか」
まず構えたのは楓。足を前後に大きく開き、沖田の腰辺りまで体勢を低くし、下段に竹刀を構えた。
「貴方は私に勝てませんよ。絶対に」
冷たい笑顔を浮かべた後、沖田は小さく足を前後に開き、平正眼の構えをとった。
道場中の空気の流れが一瞬止まる。
――ダンッ!!
その刹那を二人は逃さなかった。
――バチンッ!
地響きが起きるほど強く踏み込んだ楓と沖田は、竹刀ではあり得ない、凄まじい破裂音を轟かせた。踏み込んでから竹刀を交えるまでの時間は、実に瞬きを一つするかしないかのほんの一瞬。
永倉以外の隊士には二人が瞬間移動したように見えただろう。
――カンッ!カッ!パシ…
竹刀のぶつかり合う乾いた音が場内にこだまする。
(長くなりそうだな…)
せっかく隊士たちに稽古をつけようと考えていた永倉だったが、こうも互角の力で激しい打ち合いをされてしまっては稽古のしようがない。
諦めて二人が力尽きるのを待とうと決めた永倉だったが、その思惑は意図も簡単に裏切られることとなる。