幕末異聞―弐―


――ガッ!


「いっ…!!」


竹刀同士ではない何かが当たる鈍い音と共に聞こえた苦悶の声。

四隅で見入っていた隊士たちは、あっと小さく声を上げた。


「はっ…はぁ。もう終わりですか?」

軽く肩を上下させながら、沖田は冷たい目を足下に向けた。

「へっ!んなわけあるかボケ。休憩や」

「一本と鼻血が代償の休憩とは洒落てますね」

沖田の目線の先、そこには、竹刀を右手に立て膝を立てて座る楓がいた。

「あんたが綺麗に一本取らんからや下手くそ!」

楓は留めどなく鼻から流れる鮮血をぞんざいに道着の袖で擦る。

「下手に避けるから怪我するんですよ」

楓の止血作業を冷ややかに見下ろす沖田は、竹刀を下ろす気配が微塵もない。

「ふん。避けなかったら可愛く面を決めてくれたんか?」

出血の状態を確認しながら床に転がった竹刀を右手に持ち直す楓。

「ははは!避けなきゃ今ごろ脳天かち割れてたでしょうね!」

物騒極まりない発言をしながら無邪気に笑う沖田。その姿に、永倉は違和感を覚えていた。

(総司……辛いのか?)

元々沖田は、感情を表に出すことが滅多にない。今も、傍から見たら全くわからない。しかし、竹刀の動きがいつもの彼にはない変化を語っていた。


――相手に対する苦しみの感情


永倉にはそんな風に感じ取れた。



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