幕末異聞―弐―
「局長、一階の全ての部屋を探しましたが、桂らしき男は見当たりませんでした」
屋敷の一階を捜索していた隊士たちが二階から降りてきた近藤に報告をする。
「二階も全て探しましたが、いませんでした」
同時に、二階を探っていた隊士も近藤の後ろに付いて捜索の結果を告げた。
裏口を張っていた隊士からもいい報告は聞けなかった。
「…取り逃がしちゃったみたいですね」
最後に階段から降りてきた沖田が、近藤の横に立ってため息をつく。
全員が残念そうに沈黙する中、近藤が重い口を開いた。
「これ以上ここを探っても仕方あるまい…。総員!引き上げ!!」
近藤の気持ちとは裏腹に、キレのいい号令で隊士たちを店の外へ出す。
最後に店を出ようとした近藤に沖田がトントンと肩を叩いた。
「あの芸妓さん、気に入っちゃいました?」
沖田は半目になり、からかうように不敵な笑みを浮かべる。
「なっ!…何を言っているんだ総司?!そんな訳あるか!あ…あんな気の強い女…」
近藤はついさっきの幾松とのやり取りを思い出し、顔をこれ以上ならないほど赤くする。
額には脂汗が滲んで、嘘を言っているのが一目でわかる。
「いけないなぁ〜。近藤さんには武州に残してきたつねさんという内儀がいるというのに…」
いじめっ子のように近藤を追い詰める沖田。
「ばばばっ!!馬鹿を言うなっ!!おお…俺はつね一筋だ!!!そんな下らんこと言ってないでさっさと帰るぞ!」
近藤はこれ以上突っ込まれまいと沖田の背中を押し、三本木の大通りの元来た道を戻っていった。