幕末異聞―弐―
――京都・東山
「永倉君!これはどうだろうか!?」
「はぁ…」
「赤城君!こっちの色とあっち、どちらが似合うかな?」
「…知らんわ」
土方が山南から近藤の不在を知らされている頃、話題の中心人物は供を付けて東山の呉服屋にいた。
「何でうちが駆り出されなあかんねん」
供の一人、今日は非番のはずだった楓が不満を洩らす。
「女子の見立ては男の見立てよりいいと聞くからな!便りにしてるぞ!」
豪快に笑い、近藤は上機嫌で楓の肩を叩く。
「いたた。じゃあ、新八はなんで?」
楓はいまいち近藤の理屈が理解できなかったが、もう一人のお供として横に並ぶ永倉を指差した。
「永倉君は松前藩の由緒正しき御家の嫡男だからな。武家の嗜みなどは彼に聞くのが一番だろうと思ったのだ!」
「…うえ!!?そんな立派な家柄やったんか!?」
「その驚き方失礼だから!!」
永倉から一歩離れて頭のてっぺんから爪先まで舐めるように眺める楓。
実は、永倉家は代々続く松前藩・江戸定府取次役の大変由緒ある家柄なのだ。
その息子として生まれた新八は、自分の志道を貫く為に家の反対を押し切って脱藩し、今に至るというわけだ。
「…局長、別にお偉方と一緒になって着飾ることはないんですよ?紋付きと綺麗な袴。それさえあればいいんです」
近藤が手に持っている煌びやかな羽織や袴を永倉は、あまり興味なさそうに見ている。
「いや!そうはいかん!俺たちはやっと上層の方々にも認めていただいたんだ。もう狼などとは呼ばせやしない!そのためには、新撰組代表としてそれなりの格好をしなくては」
近藤は言い終えるや否や、いかにも値が張りそうな袴と羽織を何の躊躇もなく呉服屋のおやじに差出した。
「何だかなぁ…」
近藤の懐から分厚い金子が取り出されるのを見て、楓は小さく息をついた。