幕末異聞―弐―
――元治元年(一八六四年) 八月某日
早朝にも関わらず、八木邸の門前には人集りができていた。
「じゃあ、行ってくるわ」
「行ってきます」
人集りと少し離れた場所には、大きな網傘を被り、脚絆を履いた藤堂と津川の姿があった。
いよいよ今日、二人は隊士募集のために江戸に旅立つのだ。
「江戸の女に執心しねーでしっかり隊士集めて来いよ!」
不謹慎な原田の言葉に、一斉に笑いが起きた。
「頼んだぞ。藤堂、津川」
「任せてくださいよ!土方さん」
土方は力強く答える藤堂に一つ頷いて、微笑む。
「行こうか」
「ええ」
仲間に見守られながら二人は江戸への第一歩を踏み出そうとした次の瞬間、バタバタと慌てる足音が聞こえてきた。
「待った待った!!」
門を飛び出して来たのは、乱れた夜着に裸足の沖田だった。
「総司…何て格好してんの!?」
汗だくで息を切らせた沖田に、藤堂はけらけらと笑う。
「え?あはは…まあこれは気にしないでください!それよりもコレ!」
再び門の中に戻った沖田はズルズルと重そうな音を立てて何かを引き摺ってきた。
皆、何が出てくるのか好奇の目で見ている。
「持ってきましたよ!」
にこにこ笑いながら沖田が引き摺ってきたもの。
それは皆がよく知るものだった。