幕末異聞―弐―
「離せー!!うちは寝るんや!」
門から出るなり、沖田によってぞんざいに藤堂の前に放られたのは、起き抜けでくぐもった声の楓だった。
「布団から引き剥がすの苦労したんですよ!」
パンと手を払いながら笑う沖田に皆絶句している。
「あ…楓、悪いな。無理矢理起こしちゃって」
何も悪くないのに謝る藤堂に、楓の視線がいく。
「……気を付けて行ってこいや。土産…買ってこい」
まだ起きてない頭で寝言の如く呟くと、楓はひらひらと手を振り二人を見送る。
「うははは!ありがとう。必ず土産持って帰ってくる!楓も気を付けてね」
「…おー」
きっと次に目が覚めた時には覚えていないだろうなと思いつつ、それも楓らしいと笑う藤堂。
「今度こそ、行ってきます!」
新撰組の仲間と屯所に向けて一礼し、藤堂と津川は壬生を後にした。
――この江戸への旅立ちが後々、新撰組を激震させる事を知る者は誰一人としていなかった。