幕末異聞―弐―
「それで先生何と言ったと思う?!」
「さぁ?なんて言うたんどすか?」
「“喜右衛門さん、貴方は新政権発足に貢献した最高の商人となるでしょう”ってさ〜!!だっはははははは!!」
「まあまあ。じゃあうちはその最高の商人御付の女になれるん?」
「おうおう!光栄に思え!!」
――祇園 料亭『柏木』
月の光が京都の町を照らす頃、枡屋喜右衛門は、最近馴染みの置屋で新しく太夫になったという女に酒を注いでもらっていた。
「ほんま枡屋はんはすごいわぁ」
太夫は、頬骨の辺りを真っ赤にして上機嫌に笑う喜右衛門に甘い声で囁く。
「だろ?!俺は凄いんだよ!絶対に吉田先生のお力になれる男なんだよ!!」
「吉田先生?聞かん名前やけど、誰?」
ほぼ泥酔状態の喜右衛門に太夫はべったりとくっつく。
「うん?吉田先生はなぁ。この腐敗した時代を一掃する偉大なお方だ!
お前にも今度紹介してやろう!」
吉田に労われ、太夫にも煽てられた喜右衛門は、最高に機嫌がよく、普段より饒舌になっている。
「ほんま?!嬉しいわぁ!もう喜右衛門はん大好きどす!!」
喜右衛門の手をとりはしゃぐ太夫。その姿を満足そうに見つめる喜右衛門には、警戒心の欠片もなかった。