幕末異聞―弐―
「どうしたんですか?そんな酷い顔して」
「…酷いのは元々や」
「そんなの知ってますよ。更に酷くなってると言ってるんです」
「…死ね」
「嫌ですよ」
久々に休暇をもらった沖田と楓は、部屋の前の縁側で干菓子を食べていた。
しかし、今日の楓の様子は普段と少し違っている事に沖田は気づく。いつもは全く隙を見せない楓が、今日は隙だらけなのだ。いや、隙どころか、人前で半分寝ている状態になっている。普通なら滅多に見ない光景だった。
「眠いんなら寝ればいいじゃないですか」
「あんたのいる所で寝たらろくな事にならなそうやから嫌や」
「ゲホッ!!ゲホッ!!な…失礼ですね!!ケホッ!」
沖田は干菓子片手に激しくむせる。
「ダッサイなぁ。何干菓子なんかでむせとんねん?」
「ケホッ!ゲホ!……あぁ…辛かった〜」
涙眼になりながら胸を叩いて必死で呼吸を整える沖田を、楓は白い目で見ている。
「そのまま逝ってしまえばよかったのに」
「どれだけ私をくたばらせたいんですか貴方は?!」
珍しくつっこむ沖田を全く無視して緑茶を啜る楓。
「さて、うちはもう行くで。ちゃんと皿と湯飲みかたしとけよ」
自分の湯飲みと刀だけを持って日の当たる廊下を進んでいく。
「どこのお母さんですか」
沖田はべっと舌を出して干菓子を口に入れたまま縁側に寝転がる。