幕末異聞―弐―
「そんなに暇こいてるなら俺の手紙の代筆でもしてくれよ」
自分の頭上に立つ不機嫌そうな男に目だけ向ける。
「いやですよ。私は土方さんと違って長くじっとしているのは生に合わないんです」
「そうかい。じゃあお前におもしろい仕事をやるよ。付いて来い」
(余計なこと言わなきゃよかった…)
上司の命令を拒否するわけにもいかず、今日の休暇を諦め、渋々土方の後ろに着いて歩く。
「それで?どんなめんどくさい仕事をいただけるんですか?」
日光浴をしたくなるような陽気の中、土方の背中からあまり楽しい仕事ではないと予想した沖田は、廊下から見える輝く太陽を恨めしそうに見た。
「まぁ…。お前はまず爆笑するだろうな」
「爆笑?本当におもしろい仕事なんですか?!」
そんな笑えるような仕事が新撰組に舞い込んでくる筈がない。
沖田を含め、すべての隊士がそう思っているだろう。そんな固定観念がある中の“おもしろい仕事”とはどんなものか?沖田は大きな期待を土方に寄せる。
「山崎君。こいつを一緒に連れて行ってくれ」
接客の間で待機していたのは町人の格好をした監察の山崎だった。
「え?山崎さん??」
沖田は予想もしていなかった人物の登場に目を疑った。土方はそんな沖田の様子を横目で楽しそうに見物している。ふふんっと鼻を鳴らして沖田の腕を掴み、山崎に差し出す。
「では、二人とも頼んだぞ」
それだけ言い残して土方はヒラヒラと手を振りながら自室へ戻ってしまった。
「沖田先生。行きましょうか」
平然と沖田を引き連れて外へ出る山崎。行き先の説明や、仕事の主旨などの説明は一切ない。
「あの〜…、これは何なんですかね?」
困惑しながら説明を求める沖田に、山崎はすぐさま口に人差し指を翳し、黙らせる。
「説明は着いたらします。今は普通に歩いてください」
「…はぁ」
益々怪しい山崎の発言に頷くしかできない沖田。
山崎の指示通り、ひたすら後ろに付いて歩く。