幕末異聞―弐―
――パシーーンッ!カンッ!ガッ…!!
「一がまたなんか捕まえたらしいよ」
「本当かよ!?あいつまた厄介ごと持ってきたんじゃねーだろうな?!!」
「この前はなんだっけ?」
――バタバタッ…ダンッ!パンッ!!
「あれだ。痴話げんかで危うく刃傷沙汰になりそうだった夫婦を屯所に連れてきて山南さんに説得させてた」
「あれもあった。猫の難産に立ち会ってたお婆さんに助けを求められて猫を屯所に連れてきたってやつ」
――ドタッ!パシッ!!!カッ!!
「あれは総司と平助が母猫を一晩中励まし続けたんだっけか?」
「確かそう」
「あいつ結局厄介ごと持ってくるだけで後始末してなくね?!」
「お二人さん」
話し込んでいる二人に防具を一切着けずに竹刀を持った人物が話しかけた。
「あと相手あんたらしかおらんのやけど?」
鋭い猫のような目で二人を睨むその人物の周りには、ざっと数えても十人は下らない数の男たちか気を失って転がっていた。
「そろそろ手加減を知ろうよ…」
「だはは!!新八ぃ!そりゃ無理だ!!だって猪はすぐには…“ヒュンッ!!”
何かが風を斬る音がした瞬間、大笑いする男の着物に数本の髪の毛が舞い落ちてきた。
「左之助。猪が…なんだって?」
竹刀を持った人物は、にっこりと笑う顔に不釣合いな瞬速の突きを十番隊組長である原田左之助の顔すれすれに繰り出したのだ。
「何でもないでーーすッ!!」
原田は全力で前言を撤回する。
「こんな強い女、嫁の貰い手ないよ絶対」
新八と呼ばれた男はため息混じりに愚痴を溢しながら転がっている者たちの元へ向かう。
「ふん」
持っている竹刀を勇ましく肩に乗せ、悪態を付く人物。
彼女がこの新撰組の唯一の女隊士・赤城楓である。