幕末異聞―弐―
「そういえば、宮部君はどうした?」
宮部とは、常に吉田の傍に仕えており、彼の右腕として倒幕計画に貢献している攘夷志士である。
その名は長州藩士の中でも有名で、非常に頭のキレる人物だった。
「ああ、彼ならある男に会うために京都中を探し回っている」
「ある男?」
「土佐藩脱藩、坂本龍馬を知っているか?」
吉田は箸を取り、京野菜で作られた先付けを摘んだ。
「実際に会ったことはないが、話には聞いている。確か、英吉利(イギリス)と貿易によって友好関係を築こうとしている開国派の第一人者だろう?」
桂は以前から坂本に興味を持っていたため、彼のことについての知識はある程度頭に入っていた。
「そう。奴の立ち上げた“海援隊”という、いわば貿易商を営む部隊がすでに英吉利と貿易を行っているという情報が入った。そこに俺たちは目をつけたのだ」
「…坂本率いる海援隊を通じて、最新式の武器を英吉利から入手しようというのか?」
「ご名答。流石は秀才・桂小五郎、察しがいい」
吉田は桂の察しの良さに驚いて思わず笑みを零した。
「奴らの船を見ただけでも、日本国よりも遥かに性能のいい武器を持っていることは確実。それが手に入れば幕府を倒すことができる」
吉田は箸を置き、じっと桂の目を見て話す。
そんな吉田の眼差しを受け止めるかのように桂も視線を合わせる。
「…つまり、お前は戦争を始めようというのだな?稔麿」
桂の口調が微かに厳しいものに変わったのを幾松は聞き逃さなかった。
思わず、三味線の弦を弾く事をやめて二人を見る。
「そうだ。そうでもしなければ日本を変える事なんざ不可能だ。
現に、今までの歴史だってそうして造られてきただろう!」
桂の変化に吉田も気づき、同じく、強い口調で言葉を返した。